委員会の作業中にぼーっと窓を見ていたら、雨が降ってきた。「あ」小さな声だったから誰も気づかない。傘を忘れた。雨は嫌いじゃないけど、濡れて帰るのは嫌だなぁ。とぼんやり考える。しとしとと雨の降る音が聞こえる。誰かが窓を開けた。雨なのに。水の匂いと冷たい空気が一斉に窓から入ってきて、体に絡みつく。雨、だ。髪を揺らす。その時、薄っすらと煙草の匂いが自分の髪から香ってきた気がして、錯覚だと分かっていても、少し嬉しくなった。だって、彼にあったのは一週間も前のこと。仕事が終わった。出来た資料をまとめて机でとんとんと叩く。それから前の方にいる委員長に渡して、鞄を持って図書室を出た。委員長が一緒に帰らないかと言ったけど無視した。靴を履き替えてから外に出る。やっぱり雨が降っている。濡れる制服を帰ったらきちんと乾かさないと臭くなるなぁ。頬を伝う水。早く帰ろう。走り出そうとしたき、校門に、黒い男が黒い傘を差して立っているのに気が付いた。



黒い男はゆっくりとこちらへ来て、ぼんやり立っている私の腕を掴んだ。冷たい指先が頬を撫でた。「ジン、だ、」男はそのまま私の手首を掴んでぐいぐい歩いて行く。どこに行くの、どこへ?どこどこどこ?ジンは何も言わない。振り向かない。私も何も言わない。ジンがいるならどこでもいい。雨が2人の上だけ止んでいる。大きな大きな黒い傘。



「車は?」「向こうに待たせてある。」「ジン、」引っ張られていく体。心地よい。「抱き締めて、」動きが止まる。「抱き締めて。」ジンがこちらを向いた。いつもの冷たいそして残忍な目。怖くなんてない。私は大好き。伸びる腕、迫る黒。傘が地べたに落ちた。同時に私の鞄も。ぱっしゃーん。ジンの腕の中にすっぽり収まった。私も手を彼の背中に回す。雨粒が頭に当たってするすると、落ちていく。「いつから待ってたの?」「さぁな。」「冷たいよー体。」ふん、とジンは言った。頭に顎が乗っかる。「暖めてあげるよ。」さらに力をこめて抱き締める。背伸びして、頬に手を当てる。そのまま唇を彼の唇と重ねた。すると、面白そうにいつもの笑いを浮かべていたジンの方から無理やり舌を入れられた。頭の後ろに彼のがっちりとした手が添えられる。髪がぐちゃぐちゃになる。逃げられないように?笑いがこみ上げてくる。まさか、私が逃げるはずないじゃない。けれども、そのうち爪先立ちと息が苦しくなってきて、背が縮んでいく。一方、ジンは私に覆いかぶさるように伸びていく。葉に当たる雨粒の音と車の通る音と私の呼吸と、それだけが淡白に聞こえた。しばらくして、唇が離されて、私は彼の胸へ落ちた。頭を撫でられた。ぽんぽん。「冷たいよ。」私たちは雨のせいでびちょびちょだ。水を吸ったスカートはしょんぼりと垂れている。ジンの帽子も重そうだ。ジンの手は背中を撫でている。同じ学校の生徒が何人か横を通った。その度に彼に垂れかかっている同じ学校の少女を不審な目で見ていた。ジンはずぅっと黙っている。久しぶりの邂逅。駄目だ。ジンの匂いも体温も声も全部が、全部、私を満たしていく。このままジンになって溶けていきそう。そうして、私たちは一つの生き物になる。それは、幸せ。雨の音だけが耳で静かに響いている。ジンは私の体を離すと落ちている傘を拾って、行くぞと言った。ジンの熱を失った体はあっという間に冷たい雨の手の中に捕らわれる。鞄を掴んで彼の腕に自分の手を絡ます。ジンはあの、冷たい目で私をゆっくりと私を捉えてそれからふっと笑った。



溺 死




(20080326)
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