放課後委員会で遅くなった私は、校門に見覚えのある小さな少年が立っているのを見つけてこないだのことを激しく後悔した。友達に先帰っててと手を振ってからゆっくりと帰りの支度をする。いつもジンの足を引っ張ることだけはしないように細心の注意を払ってたのに。こないだうっかり、怪我をしていたこの少年にハンカチを貸したのは失敗だったなぁ。下駄箱で靴を履き替える。そして苦笑いしながら少年に向かって手を振った。彼も私に気が付いて手を振り返してくれた。
「少年どうしたの、こんなとこで」「こないだ借りたハンカチ返しに来たの、はい」そう言うと少年は無邪気を装って、にっこり笑いながら先日貸したピンクのハンカチを私に手渡した。「有り難う。でも良く分かったね、私がここ通ってること。」「だってその制服A高のでしょ、知り合いが一人ここに通ってるんだー。」この嘘つきめ!ここでその知り合いを問いただすこともできるけど、まあいいか、曖昧に笑い返しておいた。すると少年の後ろの物陰から一人の男性が姿を現した。写真で見た。こいつは、「初めまして」男はゆったりと笑う。しかし目は笑っていない。警戒警報が頭の中でがんがん鳴っている。危険。これは危険。「この人は知り合いの赤井さん。僕が方向音痴だから一緒に来て貰ったんだ。」「そうなの。」「ね、お姉さん、良かったらお茶でもしない?ハンカチのお礼。」少年は近くの喫茶店を指差して、可愛らしく小首を傾げた。「うーんどうしよっかな、」時計を見る振りをしながら思索する。組織の赤丸要注意人物の赤井秀一と得体の知れない少年、とお茶。危険かな。辺りの気配を伺ってみるが、それといって赤井さんの愉快な仲間達が潜んでいる感じはしない。ということは彼の独断での接触?とりあえず組織の一員として捕まる危険はない、いや今のはどこにでもいる平々凡々な女子高生だし、捕まえるだけの証拠を向こうは持っていない。それに私組織のメンバーじゃないし、ジンの不利にならいことを話せばいいのだから、それにもしかしたら向こうの情報を聞けるかもしれない。ならば、「・・・いいよ。」

コナンくんはオレンジジュースを私は紅茶をそして赤井さんはコーヒーを頼んだ。最初は他愛のない雑談、高校は楽しい?とか勉強どうとか今やってるドラマの話とかだった。ところが私の紅茶の底が見え始めた頃、不意に赤井さんが言った。「さんって恋人とかいらっしゃるんですか。」この丁寧言葉が私の琴線を刺激する。「えぇ、」知ってるくせに。「赤井さんは?」「いませんよ。」にっこり。顔色一つ変えない、流石だ。「お姉ちゃんの恋人ってどんな人?僕気になるなぁ。」コナンくんがまたしても無邪気を装う。しかしこの少年はFBIの中でどういう位置付けにあるのだろう。瞳の奥で妖しく揺れる怜利な光、獲物を追い詰めるその眼差し、年相応のものではない。「ね、私こういうの駄目なの、腹の探りあいって言うか、ストレートに聞いていいよ。私がジンの恋人なのか、組織とはどこまで関わってるとか」って言えたらなぁ。出来ればテーブルを叩いて上に乗ってるものをひっくり返したい。コナンくんが黙っている私の顔を鋭い視線で観察しているのを肌で感じる。びりびりする。「そうね、冷静な人よ。それで年上。」そしてこれでお仕舞いと言う感じににこりと笑って席を立とうとした。ところが伝票を持って中腰になっていた私の手首を斜め前の赤井さんがつかんで唇だけで笑った。長い指だ。しかも冷たい。「そして冷酷で残忍。名前はー」男の指が爪を立てながら私の手首の血管をなぞる。背中にぞくぞくしたものが走った。たっぷり間を置いてから、「ジン。」そう言ったコナンくんは組んだ手に顎をのせた。「君は利用されているだけではないのか?あの男に。」それで揺さぶりをかけたつもりか。鼻で軽く笑って再び席につく。足を組んでやる。「・・・どこまで知ってるの?」「お姉さんがジンの恋人で、しかし組織には属していない、灰色の存在、ってことぐらいさ、なぁコナンくん」「うん。」他愛もないことさとでも言うようにおどけた顔で赤井さんは肩を上げた。死ね、と心の中で言っておく。むう。眉間にしわが寄るのがわかる。どこでバレたのか。しばらくはジンと会うの、止そう。大人しくしよう。「利用か、」負けるのものかとこっちも笑ってやる。「別にいいよそれでも。愛してるんだもん。しょうがないのよ。惚れたら負けなの。それと誤解してるようだから言っておくけど、私と彼両思いだもん。」それから相変わらず不気味に微笑んでいる(不気味ーズって呼んでやる)赤井さんとコナンくんを見比べる。「私からも一ついいかな、」二人は視線で会話する。「いいよ。」「二人ってどういう関係?」「さぁね、」コナンくんが意味ありげに口の端を持ち上げる。赤井さんが音を立ててコーヒーを啜った。「ずるい、私ちゃんと答えたのに。だからも一つ質問、コナンくんって何者?」少し間があって「江戸川コナン探偵さ。」彼はシニカルに笑った。



運命に敬礼を





(20080306)
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