ドアが開いて、真っ黒でサングラスをかけた男がぬっと入ってきた。その音にバスタブの中で座り込んでいたは、ぐちゃぐちゃになっているつい先刻までは女だった物から顔を上げた。髪から赤い雫が落ちた。「ここです。」声を頼りに風呂場へ入ってきたウォッカは、中に有る物を認めて顔を顰めた。惨殺、という言葉がぴたりと当てはまる。真っ赤な風呂場、バスタブの中のかろうじて女だと分かるうつ伏せの死体、折れた包丁、そしてそこに蹲る血だらけの少女。「また派手にやりましたね。」は何も言わずに立ち上がり、スカートの裾を手で払った。「ジンは?」「兄貴は別件で動いてます。」分かってて連絡したんでしょう、と言う彼の視線を振り切ってはバスタブから出た。「これ、どうにかしてくれるんですか?」「そのために呼んだんでしょう。」うんと、少女は力なく頷いた。そのまま壁に寄りかかり、再び床にお尻をつけた。スカートは広がって赤色に染まった水を音もなく吸う。そして女の死体を虚ろな目で眺めている。「そんなにいやならやめればいいじゃないですか。」ウォッカは足でうつ伏せになっていた女を転がした。「無理だよ。」分からないなと彼は小さく舌打ちした。「だって、自分がジンの、正妻、みたいな顔して迫ってくるんだもん。ジンの本当は私なのに、なのに。なのに!」は膝に顔をうずめた。ウォッカは仰向けになった死体のめちゃくちゃになった顔を見て、またかと思った。もう何回目だ。こいつは組織が殺す予定の女だった。こげ茶の縮れた髪。その横に転がるくすんだ青色の眼球。切り取られた刺青の模様。全てがその女の特徴に当てはまっている。ウォッカは冷たい汗が額を伝っていくのを感じる。兄貴は本当に恐ろしい人だ。邪魔になった人間をわざとこの少女に殺させている。そして笑っている。そっと真っ赤になったブラウスと髪が体にべったり張り付いているを見ると、薄っすら笑っていた。それは、見てはいけないものだった、背筋にぞくぞくと悪寒が走る。きっとこの少女は知っている。兄貴に殺させられることを、この女だったものの正体も、そして今兄貴が俺と別に動いていることも。もちろん兄貴はすべて分かっている、それもこの少女は分かっている。知っていて。お互いにどこまでも歪んでいびつな愛情表現。・・・・。「恐ろしい人たちですね。」「そうかな、」こうやって彼の愛情で心が満たされていくのをウォッカさんには一生分からないんだなとは思った。



最も美しい花



(20080324)
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