「どーん、」
金属バットで頭を殴ろうとする。ワイヤーで首を切断しようとする。ナイフで腹を刺そうとする。斧で足を切断しようとする。あの手この手ではイルミを殺そうとする。その際には決まって「どーん」の掛け声をあげる。それがなければ、もっと成功率があがるんじゃないの、とキルアは思う。「どどーん」また兄貴と殺し合いごっこでもしてんのかなあ、遠くから例の掛け声が聞こえる。今日も派手にやってるなあ。「ど、ど、どーん」キルアの姉であり、イルミの妹であるは家族以外には非常に優秀であった。「ど、どどど、どーーーん、んんんっ!?」他人からの評価が素晴らしいのに、どうして、は何をどう、間違えてしまったのか、家族には、特に兄であるイルミには、度を越した阿呆であった。「ど、ど、どにゃ、」何かが爆発する音と姉の情けない声が、本日の殺し合いごっこの終了を周囲に教えた。


肋骨は開き切り、内臓からは焦げた匂いがしている。おまけに脳漿をぶちまけて、目玉を地面に転がしたを見て、イルミは溜息を付いた。可愛いわが妹は、何を間違えたのか昔から死体とか、ゾンビとかそういうものが大好きだった。そういったものが、他より充実している家庭だったので、周囲も良しとしていたが。彼女が念を取得してから、事態は一転した。の選択、それは自身のゾンビ化と、周囲のゾンビ化。ねくろまんさーっていいよね、と阿呆みたいな発音で言っていた彼女の頬をはたいてやりたい。黄昏に浸っていると、の体が再生していく。投げようとしたダイナマイトが体に絡まって、うっかり。これのどこが優秀だというのか。綺麗に戻ったは、イルミに抱きついた。目にも止まらぬ速さだった。見た目は人間と変わらずとも、ゾンビだから体温はない。冷たい、とイルミは思う。「おにーちゃん、今日も駄目だった」しょんぼりと、自分の肩に頬をつけている妹は本当に可愛いが、イルミの表情は曇ったままだ。ちなみに、この駄目だったはイルミを上手く殺してゾンビに出来なくて、悲しいという意味である。「ゾンビのおにーちゃん、操りたいの」「そんな目で見ても駄目だからね。」頭を撫でると、猫のように喉をごろごろならす。「なんでえ、だめなのー」ゾンビになっても見た目は綺麗なままにするし、とはイルミを説得しようとする。見た目が綺麗なゾンビの俺と、今の俺とどんな違いがあるのか、イルミはたまに妹がわからなくなる。「し、死んでるのと、再生するのと、あと、私の言うこと、全部聞くのがいい、」ぽぽぽ、とは頬を染める。お兄ちゃんだけ、特別ね、と。「・・・俺が死んだら悲しいでしょ、」「・・・・悲しい」急激にがっかりした顔になったの大きな瞳からぽろぽろ涙がこぼれる。ゾンビの体液はどこからでているのだろうか。念なのかもしれない、今度調べよう。「でも、ぞんび、なて、ほしい、」ぐすぐすと泣き出したの頭をぽんぽんする。本当にこの妹は阿呆だ。「おにいちゃんが、ふたりいればなあ、」イルミの背筋が冷える。底なしの念能力。妹のオーラには底がない。どんなにゾンビを生み出しても、妹の念は尽きない。無尽蔵なのだ。だから、阿呆ゆえに、自分の欲望に忠実な彼女なら、もう一人の自分を作り出してしまうこともあり得るのだ。「、」抱っこしたまま顔を上げさせて、目を合わせる。鼻水が出ていたので、袖で拭いてやる。「なあに?」「俺が二人もいたら、俺は嫌だな」ちゅっ、頬に口づける。お兄ちゃんの口調でイルミは続ける。といるとついこうなる。この口調をキルアとカルトは気味が悪いと言って憚らない。「を独占できなくなる。」でも、阿呆だから、明日になったら忘れちゃうんだろうな。今度は唇に口づける。いつも半開きの唇から、舌を入れる。この行為は、妹が、底なしの恐ろしい妹が、いつまでも自分に従順であるためなのか。それとも、アルカのようにさせないためなのか。後者だとまるで、自分が妹を保護しているようだ。息が辛そうなので、一瞬だけ、離して再び口づける。阿呆だから、唾液が口の端からこぼれる、それを指先で掬った。そういえば、妹からでる液体を気持ち悪いと思ったことがない。必死に自分に縋る妹が可愛らしくて、イルミは嫌な気持ちになった。


不治の病

20150103
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