「これがお仕事モードってやつですかぁ。いやはや凄いですね。初見です。」

そう言いながら物陰からのこのこ出てきたのはこの殺伐とした雰囲気に似つかわしくない、顔に締まりの無い女だった。だぼだぼでよれよれのティシャツとビール缶(もしくは缶酎、ビール瓶や焼酎など)が目印のは何が愉快なのかにへらにへらしたまま、足下へ散らばる死体に躓き躓きこちらへやってくる。が仕事に同行したいと言い出したのは、ほんの少し前のことだ。脱走を図っているようには見えなかったので、連れてきてみたら、ただ安全なところで俺たちの仕事を傍観していた。無意味に楽しそうに。全く俺たちの先ほどまでの行動のどこへ愉快に思えたのかが分からない。つまり人が大量に死ぬ現場を見てにへらにへらしていたの精神は、俺たちと一緒で遠の昔にいかれているのだ。まあハンターなのだから、当然と言えば当然なのだが。
「鮮やかな手腕!見ていて楽しかったです。私凄い人たちに養われてるんですね。」
などときゃっきゃっと言う女は目も背けたくなるようなこの惨劇をアクション映画気分で見ていたのだろうか。思い返せば、出発の際ポップコーンの袋を持っていた気もする。だからこそ、一般人の姿をしたこの女の中身を未だに判断に迷っている。
「うひゃっ!」
死体に躓いて転んだが奇妙な悲鳴を上げた。そのまま倒れて動かなくなったので、手を貸してやる。手を掴んだの顔も服も血と泥でぐちゃぐちゃになっていた。顔を上げたはどうやって死守したのか缶ビールをごくりとすすった後、あ、と言った。
「クロロさん、髪あげると、老いますね、」
一瞬言葉の意味が理解出来ずに固まった。
「・・・・それは俺に喧嘩を売っているのか?」
は立ち上がりながら俺の指へ自分の指を絡め始めている。女からはむせかえるほどの血に混じってアルコールの香りがする。驚いて顔をこちらへ向けたの血の付いた睫が上下した。
「まさか。私年上好きですよ?私の愛した師匠も年上でした。」
うっとりと目を瞬かせたへ柄にもなく不快感を覚えた。師匠と言うのはこの女に念と今の堕落した生活を教えた男のことである。俺たちのアジトへ意気揚々とやって来た1年ほど前に死んだらしい。ちなみに男の残したお金と自分で稼いだお金が尽きたので、俺たちを捕まえて資金を稼ごうとしていたらしい。そんな無謀なことをするよりももっと堅実に稼げる方法があったんじゃないのかと尋ねればそう言えばそうですねーと酒を飲んでいた。
ところで愛していたのは師匠だけ、が口癖のこの女にじゃあ俺をどう思っていると聞いたところ愛していますと笑った。結局この女は何も考えていないのだ。目先の快楽のみを追求して溺れている。底が深くまであるようで実は浅い、愚かな女だ。だが、これは手元にあると面白い女であった。だから俺はこの女の内面に決断を下すことが出来ないでいる。口の端だけで微笑んだ俺へ、何かイヤラシいこと考えてるんですか、と間延びした声が向けられた。はどこからか出したのか2本目のビール缶を開けているところだった。
「いくつだ?」
「何がですかー」
「おまえの師匠の年だ、」
「えーと、57歳の時に死にました。」
にこーと悪意を微塵も感じさせずに笑ったの手を振り払えば、女は間抜け面のまま再び死体の中へ倒れていった。


無知に因る、



20090403
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