誰もが変化に気づかないくらいのゆるゆるしたスピードで、ここから家へ帰る準備を始めていた。最早旅団のみんなは、私が一人で外へ行くことに何ら警戒を持っていないようであった。もしかしたら、何かしらの念が働いているかもしれない、けど、私は家に帰りたいの。家には途中で飽きた仕事たちが、無作法に転がっているのを、思い出してしまったから、それらが気になって仕方なくて、可哀想で仕方なくて、一刻も早く完成させてあけたくて堪らない、から。洋服を引き出しから引っ張り出しながら、近くにあったビール瓶を口にすると空だったので、床へ投げた。
2人で旅行をするときにパクノダさんがくれた黒くてつやつやしているボストンバックに、洋服を少し詰め、残りのスペースにはアルコールを出来うる限り入れた。パクノダさんとの旅行はとても楽しかった。暖かなお風呂、水面に揺らめく金の髪、薄いピンク色の背中、頭の芯から蕩ける深い声、チョコレートボンボンみたいな、大人っぽくて、苦くて、甘くて、酔い痴れてしまう、パクノダさんとのひと時、だった。バックに顔を寄せてみると、パクノダさんの香りはせずに酒の匂いがして、不覚にもうっとりした。
それを持って外に出た。明るい時間に外へ出るのは随分と久しい気がする。今までの不健全な生活に、長生きできないなぁと思う。だって、お日様の下で、きらきら光る金髪が目に痛いもの。彼は私の気配に気が付いて、振り向く、少しだけ、驚いた顔で。シャルが、あれ、どこ行くの?と聞いてきたので、マチちゃんと旅行だよ、と言った、「あぁ、そう言えばマチもそんなこと言ってたね。」シズクさんがシャルの後ろから顔を出した。シズクさんが、人の話を覚えているなんて、すごーいと思う、「全部口に出てるよ、。」「お土産買ってきてね。」シャルが私の頭をぐりぐりと撫でた。お土産は、買ってこれないよ、でも、旅行に行くのはうそじゃないもん、マチちゃんには悪いことしちゃったなぁ。待ち合わせ場所で来ない人を待っているマチちゃんを想像して、胸はちくりと、針がちょんと触れた程度の、痛みがしたような気が、する、けれど。私はボストンバックを持って、その辺の車の窓を割って鍵を開けて、乗り込んだ。「いけないんだー」と微塵もそう思っていない風な、シャルの声がした。シャルの声を聞くのもこれが最後なのかなぁ、私は車を無断で借りるよりもいけないことをするよ、きみは悲しむのかなぁ。車から身を乗り出して、シズクさんに手を振ると、視線はこちらに寄越さずに返してくれた、何を見ているの。シズクさんと私は似ていると、旅団のみんなは言う、けれど、私もシズクさんもぜんぜん分からなかった、よ、最後まで。次にシャルへ手を振ると彼も、いつものさわやかな笑顔で返してくれて、嬉しくなった。口にしたら勘の良いきみが気づいてしまう言葉は、胸の中で転がすよ。小さくなっていくシャルとシズクさんをミラーで確認、そして、さようなら。空気は振るえないで、代わりに胸が震えたような、





流星街を出て、知っている街へ出て、そこから先はカンだけで帰路を進む。流石に我が家を忘れたりしないわぁと、高を括っていたけれど、結局人に聞きながら移動することになってしまった。家が目立つものの中にあって良かった、ほんとに。私の家は、人のいないでも大きな山の中、ぽつんとある。師匠の形見の山。今の持ち主は、私。家の隣には、ビールが貯蔵してある大きな大きな、30人くらい入れる冷蔵庫。この中へ入るとき、私はコートを着なきゃいけない。昔、お客さんがくれた、そのコートは、黒いウサギさんの毛皮で作られている。これを作るまでに、一体何匹のウサギさんが死んでしまったのだろうか。どうでもいいことだねぇ、でも、早くふかふかしたウサギちゃんたちで包まれたい、お酒飲みたーい。空になったビール瓶を窓から捨てると、かしゃーんと、いった。良い子は真似しちゃ駄目よ、暗闇からこちらを伺うウサギちゃんにウインクしてみた。
なんとか、家に着いた時、周りは真っ暗だった。ドアを開けると、僕が待っていた。「お帰りなさいませ、主。」靴を脱いで、家に入る。僕から酒と、カーディガンが渡された。「主、お風呂に入ってはいかがですか?お召し物が汚れていますよ。」長い間戻っていなかった家は、僕が働いていたから、埃もなく、暖かく、台所からはいい匂いがする、全部を無視して、玄関から一番近い部屋に入る、そこは手付かずのままで、ドアを開けると埃が舞った。部屋には、ベッドと、投げ出していた仕事が詰め込まれていた。おかえり、可愛い子供たちが、囁く、ただいま、寂しかった?子供たちが微笑む、えぇ、とっても。
ベッドに身を投げて、右腕を外した。私の右腕は義手だ。能力を高めるためだけに、切断した。義手が外されて、露わになっている、丸くなった肩の付け根から黒い糸が出る、それは、くるくると、放置されていた子供たちに巻き付いて、仕事を完了させるため、一つの人形を作り上げる。出来上がった人形は目を開けて、こちらをみた。私が、顎で箱を示すと、のろのろと中に入っていったその箱を、ドアを開けてやって来た僕が、テープで蓋をして依頼者の住所の書かれたラベルを貼り、それを持って部屋から出た。さらにもう一つの仕事を行うと、同じことがさらに繰り返される。久々の自宅に、意識がまどろみはじめた、たとえ眠っても、糸は吐き出され続ける、終わりは、私の性格に似合わずに、しっかり3時間後。曖昧に溶ける思考、今日のことも昨日のこともその前のことも明日のことも、みんな、ぼけてゆく、ピントの合わない写真、そこには、楽しく遊んでいたあの場所とあの人たちがいて、最後に手を振った金髪の青年も写っていた、わたしが、きっと、わ、すれる、予定の、人たち。





シャルがの名前を見つけたのは、がいなくなって3週間ほど経った頃であった。彼らの知っているよりも少しだけ若い顔であった。ピンぼけした顔写真に、添えられている言葉は人形職人。シャルは酒でふやけたあの指が人形を作れると思えないけど、と考える。後ろで読書に興じているクロロへ声をかけた。「は人形が作れるらしいよ。」詳細ボタンをクリックすると説明が表れた。記憶を有し行動する人形を作り出す、それがの念のすべてであった。クロロはいつの間にかにシャルの背後でパソコンの画面をのぞき込んでいた。「どうやら俺たちはあの愚かな女の子に騙されてたみたいだね。」シャルは爽やかな表情のまま言うと、クロロもまた表情を変えずに相槌を打った。「しかしどうやって、パクの能力を欺いたんだ。」「んー、本人に聞くしかなくない?」金髪の青年は住所の書かれた箇所を指しながら、「ここから随分離れてるけど、きちんと帰れたのかなぁ。」「さぁな。」「迷ってそうだよね。」「あり得ない話じゃないな。」二人の頭へ、締まりのない顔で路上に倒れる女が、同時に浮かんだ。「しかし、アルコール中毒の震えた指で人形が作れるとは到底思えないな。」シャルが思わず噴出したので、クロロは首をかしげた。





盗賊たちがその家の扉を開けた時、そこには中途半端な形で投げ出されたために、不気味になってしまった人形が数体と、盗賊たちの探す人間とよく似た髪の長い女がいた。その女は、探し人よりも大人っぽい顔つきをしていた。「は?」盗賊の一人が訪ねた。女は優雅な動作で彼らを一人ずつ見つめた。「お客様でございますか。申し訳ございません。主はただいま出かけております。ご用でしたらわたくしがお聞きいたしますわ。人形のご依頼でしたら、写真と、髪の毛や骨など、人形にしたい本人の体の一部をこちらの封筒へ、あなた様のお名前と住所を書いてお入れ下さい。出来上がりましたら、お送りいたします。ただ、お急ぎならば他を当たって下さい。わたくしたちの主は気まぐれで、お出かけになられたらいつ帰ってくるか分かりません。この度も、なにも言わずに、3年と1ヶ月21日の間留守にしておりました。ですから、今回もいつお帰りになるのか。」無表情のまま首を傾けた女を無視して、盗賊たちは家の中へ入った。どこにも人の気配は無かった。
「いらっしゃいませんよ。」「どこに行った。」「わかりませんわ。」女の首が宙に舞った、そのための腕から伸びていた黒い糸がちぎれて、あちらこちらへ飛び散らかった。女もまた人形であった。「主をお探しなのですね。非常に残念ですが、わたくしは主の居場所は存じ上げません。」床に転がったまま女は言った。黒い糸はミミズのように動き始め、女の周り集まって、やがて女は立ち上がった。「主がお帰りなられましたら、ご連絡いたしましょう。こちらに連絡のとれる番号をお書き下さい。」





急に、外へ出たくなって、そう言えば、行ってみたいところがあった気がすると思って、雑誌の切り抜きを持って、お散歩に行った。この町知りませんかー?と切抜きを見せながら訪ね歩いているうちに日が暮れて、綺麗なお兄さんに拾われて、ご飯をご馳走になった。それから健全に別れて、しばらくして、アルコールが切れた、お金はない、カードもない、人通りもない、とりあえず私は地面に倒れた。
しばらくして、目を開けると、猫のような、銀髪の毛並みの、子供が私を見下ろしていた。「お姉さん何してるの?」声が出ないので、唇をぱくぱくしてみた、「さ?」あ、金魚みたい。「け?さけ!あ、酒が欲しいのか!」少年は納得して、その場を去った。最近の若者は冷たい。こんなにかわいい、うーん、それなりに、そこそこに、まぁ、人並みに、可愛い顔した女の子、女の子?うん?もうすぐ25くらい・・・、あれ、いくつだっけ、えーと、師匠が死んで、4・5年?クロロさんに1年とか言っちゃったな。だから、あれ?まあいいか、とりあえず、見れる程度に可愛い顔した女の子、しかも若い、が倒れてるんだよ、助けなよ、下心から助けなよ。助けてくれたら、それなりに楽しいよ、うん、私本当に何歳だっけ。「はい、」目の前に少年の猫のような瞳と、白い肌、銀髪が太陽の光できらきら輝いていて目に痛い。「ビールでよかった?」そして、顔に逆さに向けられた缶から溢れる、命の源、アルコール!「お姉さんの顔どっかで見たことあるんだよねー。どっかであったことない?」顔にべしゃべしゃかかるビールが口へ流れ込んできた!私は勢い良く起き上がる。「お姉さんって、なんて名前?」少年と目が合う。なかなか格好良い顔ではないか!将来が楽しみではないか!あ、私さっき何考えてたんだっけ?あ、そうだ、「私って年いくつだっけ。」少年は思いっきりずっこけた、そして、あ、と叫んだ、「思い出した。兄さんの知り合いだろ?昔家にいたことあったじゃん、名前はえーと、」少年はそこで詰まってしまったようだ。「私は、君は?」「覚えてないの?」「?初対面だよ。」「ちげーよ!会ってるってば!イル兄知ってるだろ。」「?イル・・・?イルカ・・・?おつまみ欲しい・・・」「だからちげーって、イルミ・ゾルティック!俺はそいつの弟!」「知らないよ、初対面だよ?」「あーーーっ!だから会ってるって!あんたと話してるといらいらしてくる。もういい!」少年はぷりぷりしている、「そういや、兄貴があんたのこと血眼になって探してた、」そう呟いた後、私の体を片手でひょいと持ち上げた。「とりあえず、兄貴に引き渡すか。あんた面白いし。」さっきまで頭から湯気を出していたのがうそのように上機嫌になった少年は、私を横に抱え走り出した。




楽園の行方


20090912
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