「私の師匠が教えてくれたのは陽気に生きることだけ。そのために私はおいしいお酒を飲んで、楽しく歌を歌って、気楽にセックスをするのさ。戦い方なんてこれっぽちも教えてくれなかったわ！」

この状況下、つまりは手足を鎖で縛られ体も鎖で椅子に固定されているこの状態で陽気に生きる術を語る私の根性は人間としてかなり間違っているのかも知れないと感じた。師匠の言いつけを守っているのだけなんだけど（私ってなんていい弟子！）

「ならなぜここに来た。」

ここっていうのは泣く子も黙る幻影旅団通称クモのアジトのこと。ぼやけた蝋燭の光がここでは照明になっているらしいけど、あまり明るくは無い。こんなところで本を読んだら目を悪くしそうだ。

「陽気に生きるためにはそれなりにお金が必要なの。」
「ほう、なら俺達の首でも捕るつもりだったのか？」

目の前でオールバックの背の高い変なコートを着た男が私に聞く。多分こいつが団長とかって言うクモのリーダーだ。

「そんな滅相もない。写真でも撮って逃げる予定でした。」
「だけどつかまたいうわけね。」
「ザッツライト！」

するとポキンと軽快な音がして私の指が不自然な形に曲がっていた。しかも三本ほど。
団長と思われる男性の後ろにいる小さなよく見りゃ結構愛らしい顔した男性（歳はいくつなのかしら）、が折ったのだろう。その彼は今私の返答にこいつふざけてるね、ころしていいね？と周りに聞いているところだ。

「えっ、私死ぬの？死ぬならボインで美人な女の人の胸での窒息死を希望します。」

そうそう例えばそこの金髪さんとか。ちらりと目をやる。さっき何回も殴られたのでやや視界が歪んでいる気がする。

「私はごめんだからね。」

舌打ちすると小さいのが再び私の指を折った。ポキン。

「団長やぱ殺したほういいよ。」
「しかし殺すには惜しい人材だな。」

小さいのは不服そうな顔をする。そんなに私を殺したいのか。

「こいつクモにいれるの？」
「今は抜け番はねーぜ？」

着物っぽい女の人とちょんまげが言った。

「ぶっ！ちょんまげウケる！」
「あ？」

刹那鈍い衝撃がして顔面を一発殴られたことを知る。鼻血が唇を伝わり床に染みを作った。

「さっき止まったばっかなのに。でも、鼻血の染みって綺麗だから好き。」
「ノブナガを抑えろ。」

ちょんまげは後ろから大きな人に掴まれて、何あれフランケン？遠くに行ってしまった。残念。

「ねーえ。お酒無いの？飲みたい。」
「アル中？」
「眼鏡ちゃん正解。私お酒無いと死んじゃう。」
「・・・・。」
「お前念は使えるのか？」

唐突に言われたので少し驚いたけど、とりあえず頷く。鼻血がまた垂れる。

「一応ハンターですから。」
「ほぉ。どんな能力だ。」
「言わないと骨折るね。」
「ってかもう折ったじゃん！それにそんなことしなくても言いますよーだ！私の能力は自分の記憶を具現化して相手に見せることです。」
「パクと似てるな。」

エジプトみたいなヘルメット被った人だ。笑っちゃいそう。

「ボインさんと？」
「・・・ボインさん。」
「それだけか？」
「それだけです。」
「よし。お前名前は？」
「ちゃん。２２歳です。」
「かわいい名前だ★」
「黙れヒソカ。」

ここで団長がこほんと咳払いを一つ。

「ここの雑用をやれ。」

あぁ、ここで雑用やるのは大変そうだ。だってゴミとか多そうだし、人使い荒そうだし。やだなぁ。

「団長何言うね！」
「そうだぜ、団長！」
「おや、彼女に惚れたのかい★」

上から小さな子、ちょんまげ、ヒソカっていう人。
その後ボインさんと着物さん、あと眼鏡ちゃんもフランケンっぽいひともエジプトみたいなヘルメットも髪が凄い人もでかい獣みたいな人、金髪青年にミイラみたいな人も一斉に団長に詰め寄って抗議している。

「みんな怒ると血圧上がるよ？」

そう言うと全員ににらまれた。怖い。また指が何本か折れた。
あっ、爪も剥れてる。折角綺麗にマニキュアで真っ赤に塗ったのに。

「お前ら少し黙れ。」

団長がきりりとして言うとみんな静かになった。なんで私じゃ駄目なのよ。

「こいつは、そうだな、適当に盗んで来た商品だと思って良い。最近ここの掃除も疎かになりがちだし丁度良いじゃないか。 下僕のように扱えば良い。能力だって戦闘向きじゃないし、問題無いだろ。 それにもしこいつが生き延びて俺らの記憶をばらまかれてみろ、仕事がしにくくなる。」

それでもまだ納得出来ないのかどよめく。

「私の意見は無視なんですか。」
「これは団長命令だ。」
「私団員じゃないし。」

口答えしたら酒瓶で殴られた。頭から髪を伝わって滴り落ちて来たお酒を舌で器用にかき集めて飲む。ちょっぴり鉄臭い。

しかしこの一言で私のクモ雑用兼下僕生活は幕を開けることになったのだ。






それが不幸の始まりだった
（それでも彼女は陽気に鼻歌を唄ってる。）

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