日差しが暖かくて、つい眠ってしまった。それじゃなくとも、最近は学校などに所属しているから眠いのだ。人間の、学校は朝が早い。セーラー服よく似合っているよと、忍が喜んだのが唯一の幸いだ。学校で幽助たちを監視している。仲良くなったのはいいことなのかなあ。忍はその報告を聞いて曖昧に微笑むだけだ。なんだかなあ。ぼんやりとした頭のまま目を開けると、眠る前まで一緒にいた御手洗がいなくなっていた。何となく悲しい気持ちになったの頭上を、モンシロチョウが飛んでいく。春だ。頭がぼーっとしたままは思った。「縁側で寝ると風邪を引くよ。」隣でヒトシが薄く微笑んでいた。お腹のところに薄手のフリースがかけてある。ヒトシだ。「…ありがとう」は少しだけヒトシが苦手だった。忍の中で、ヒトシだけがよくわからない。彼の腕の中で彼女の魚が気持ちよさそうな声を上げていた。彼の手にはブラッシング用のくしが握られている。一体毛のない魚はブラッシングされてなにが楽しいのか甚だ疑問だ。「ほら、出来たよ」腕から放たれた魚は気持ちよさそうに宙を舞った後、の隣に収まった。ヒトシは生き物に優しい。その優しさは春の暖かさと、とてもよく似ている。そして、と彼女の従僕は愛すべき生き物たちにカテゴライズされるらしい。ヒトシの優しさをひしひしと感じながらも、自分の喉を撫でる男に疑問を感じざるを得ない。猫と私、犬と私、昆虫と私、どっちも同じくらい大事で、同じ生き物としか認識出来ないのがヒトシであった。戸愚呂兄の面倒を見ているのも、ヒトシだ。にはそれがたまらなく不思議であった。彼は、あの下卑た小男の長い髪も今のように梳かすのだろうか。彼の膝に頭を乗せ、取りとめのないことを考えていると、の瞼が再び重くなっていく。夕方には来ると言っていた神谷の美味しいお土産を思いながら。気持ちの良い、春の昼下がり。「ここさ、カマキリがいっぱいいるらしいぜ!」突然の賑やかな声にの安寧は破られた。視線を向けるとそこには小学1〜2年生くらいの男の子たちがいた。網や虫かごを持った彼らはあどけなく見えた。そして、2人の姿を認めると、動きが止まり、慌てた表情になる。幼い唇が謝罪の言葉をたどたどしく形作る。微笑ましい光景だった。「ご、ごめんなさい、人が、」しかしそれは一般論であって、治外法権によって成立するこの庭では違った。ヒトシの表情に変化があったのをは見逃さなかった。嫌悪や憎悪が全身から溢れる。ぶわり、鳥肌が立つ。汗が額を伝って、板に落ちた。ヒトシの指先が、侵入者を殺した。汗が落ちるその一瞬の間に、子供たちは肉塊になった。ぐしゃっ、と地面へ肉体の落ちる音がした。何があったか、彼らはわからなかっただろう。それが救いなのか。「ああ、庭が汚れてしまうじゃないか!」激高したヒトシの声が、静かになった庭へ響いた。「いい肥料になるんじゃないかな。」「いやだ、汚らしい。」ヒトシの命令するような視線がへ落ちる。「わかってるよ、」腹の上で眠る従僕を呼ぶ。魚は一声あげると、子供たちだったものを飲み込んだ。後には血の一滴も残らない。透明な舌が、草に飛んだ赤を舐めとった。淀んだ緑色の魚の腹の中で、肉塊がゆっくり消化されていく。まだ子供だったもの。「良かった。草花が傷つかなくて。」ヒトシが心底ほっとした表情で言った。彼が手入れをするこの庭は、彼の愛情の具現でもあった。「あんな汚いものが、この庭に入るなんて。どうやって結界を抜けたんだか。」汚いものが踏み散らかした場所を丁寧に補強しながら。「さあ?ちょっと見てこようか。」従僕へ目くばせすると、魚は意図を察したのか青空を泳いで行った。従僕はヒトシによく懐いている。餌付けだ、とは思う。「ヒトシは、ほんとに好きだね。」「愛してるからね、人間以外は。」彼が微笑む。「あ、そう」は興味なさそうに縁側へ再び横たわる。最近はここに来る人間も増えたというのに。矛盾だわ、とは彼の発言を心の中だけで批判した。




悩みつくしたその果てに





20120812
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送