風で揺れたブランコの錆びた音が響く。それはこの公園にとても似つかわしい音楽であった。肌寒くなった季節のせいか、それとも最近あった幼児誘拐事件のためか、公園はその広さに関わらず、閑散としている。それでなくともこの公園はいろいろないわくつきだ。人々が好んでくるような場所ではない。しかし、彼には公園としての役目を果たすべく様々な機能が搭載されていて、それが一層物哀しかった。その公園で私はぼんやりと池を眺めていた。公園を訪れる人々の目を賑わすためなのだろうか、今の季節、それは寒々しい意外のなにものでもなかった。ジョージのお使いに付いてきただけの私は、仕方なしに沈みかけた太陽の映る池を眺めている。池と言うよりも、沼に近い風貌がどことなく懐かしい。オレンジ色に染まった水の上を鴨が泳いでいた。その光景はやはり荒涼としている。 ジョージはビニールシートの上に置かれた商品を説明している最中だった。寂れた公園の、一角で武器の売買が行われているだなんて、近隣のみなさまは夢にも思っていないのだろう。青色のビニールシートの上で黒々と輝くそれらは、この風景に似つかないものであった。武器を売る男の座るベンチには、本来サラリーマンとか、子供を眺める主婦だとかが座るべきものだ。少なくとも私はそう認識している。 ジョージは男の質問に一頻答えた後、紙幣を受け取った。サラリーマンのお給料ひと月分くらいの厚さがあった。しかし私はサラリーマンの一月分の給金を見たことがない。武器を買った男は嬉しそうに私の横を通り抜けた。ちらりと見えた、男の顔は不健康に浅黒く、むくんでいた。彼は私を一瞥することなく過ぎていった。 「散歩だって言ってたのに。見張り番にさせられたわ。」 「散歩じゃないか」 ジョージはいい武器屋だ。他よりも少しだけ安くて、凄く状態がいい。ジョージが武器を手入れしているのを良く見るが、その手つきはひどく優しい。中身を一つ一つ丁寧に解体して、掃除をして、そして慎重に組み立てる。完成したそれらはまるで彼の子供のようだ。 「散歩は、あんな物騒を売ったりしない!」 ジョージがおかしそうにこちらを見る。まるで彼が鞄を持って出たのを見抜けなかったことが悪いと言ってるようだ。 「僕が鞄に商売道具を入れるのを見ていただろう?それでもついてきたのはなんだから。」 「騙された。」 「騙してないよ。」 ジョージは笑う。その笑い声に被せるようにして、従僕の鳴き声が公園に響いた。 「人が来たようだし、帰ろうか。」 そう言って大事そうに鞄を抱えると、ジョージは空いた方の手で私を引っ張った。冷たいジョージの手は、武器と良く似合っている。自分の指を彼の指先に絡ませた。私と手を繋ぐことに抵抗のなくなった彼の横顔を盗み見る。仙水の中で一番枯れている彼の顔から心の内を読み取ることは、難解である。 「あの人は買ったものを何に使うのかしら。」 「さぁあな。」 「気にならないの?」 「あぁ、俺には関係ないことだからね。」 折角なので公園をぶらぶらする。繋がったままの指はお互いの体温が交ざり合ってぬるくなっていた。 「不思議だわ、」 視線を上げると、薄く微笑んだジョージと目が合う。小首を傾げた彼は、なにが、と言った。 「あんなに大切そうに手入れしてたのを、よく人間に売れるよね。」 「そうかな、武器は人間が使うためのものだよ。」 ベビーカーを押す夫婦とすれ違った。幸せそうな表情だ。彼らも武器を使うのだろうか。 「そんなものかな」 「そんなものさ」 「ジョージの武器で人間がいっぱい死ぬね。」「悲しいのかい?」 「ううん。でも、人間はそれが悲しいでしょう。武器があるから人を殺すの?」 「違うよ、人間なんて誰が武器を与えなくても殺し合うさ。」




いつか終わる現実だとしても


20111007
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