蝉がけたたましく鳴いている。太陽は凶悪に輝き、熱で風景は歪んでいる。そんな中パステルカラーの水着に、アニメのキャラクターの絵が入った透明な浮き輪、おまけに麦わら帽子を被ったは、太陽の下で仁王立ちしている。夏らしい出で立ちにはおもわずうっとりした。しかしここは海水浴場ではない。プールでもない。彼らの住む家の庭である。その証拠に縁側へ腰掛けたミノルは優雅に読書に努めている。ちりんと、風鈴が優雅な音をさせた。「夏はいいね!」そう叫んだはマコトが用意してくれたパラソルの下でパーカーを脱ぐと、プールに飛び込んだ。もちろん彼らが住む庭にプールはない。あるのは、浮き輪と同じキャラクターの入ったビニールプールだけだった。ヒトシが手入れしている草花に交じって、申し訳なさそうに置かれている。そして人間2人がぎりぎり入れる程度のそれには満足げに浸かっている。浮き輪は大きすぎて邪魔なのか、ビニールの外に放り投げられた。「花が傷むとヒトシが怒るぞ。」浮き輪が花をなぎ倒して地面へ落下したのを目で追いながらも、樹は拾う素振りを見せなかった。ミノルの後ろから顔を出した男はサンダルをひっかける。一つに結われた彼の髪は暑さのためではなく、ビニールプールではしゃぐ女の視覚的演出のためであった。「タオルここに置いておくぞ。」彼はパラソルの中にあるスツールにタオルをかけた。これまた、同じキャラクターが描かれている。ピンク色で血を垂らした熊が不気味にこちらを見ている。「ありがとう!」はにこにこ顔だ。良く見れば暑さのため小さくなった彼女の従僕もビニールの中に入っていた。の足の間でリラックスする目のない魚。樹が何気なく見ると目が合った。従僕は目がないくせに、あるような仕草をする。従僕はそのままするりとにすり寄ると胸元に顔を埋めた。樹は何となく従僕の行動の意図は読めたが、それに対するアクションを起こすことはなかった。単純に面倒だった。しかし、自分の目が細くなったのは分かった。



しばらくはちゃぷちゃぷと音を立てていたが、飽きたのか動かなくなった。読書を終えたミノルが目を上げると、ビニールから四肢をぶらんと投げ出していた。ミノルは毎年のことだと思いつつ、腰を上げた。「もう飽きたのか。」近寄るとが死んだ魚の目で見てきた。少し大きくなった魚も同じような動きをした。「お前は毎年同じことを繰り返しているな。何が楽しいのか俺にはさっぱり理解でないがね。飽きたのなら、体を拭いて椅子に座ればいい。そろそろマコトが出てくる。お前にかき氷を用意するためにな。」の目がきらりと輝く。彼女は勢いよく飛び出すと、掛けてあったタオルを掴んだ。同時にミノルと交代したマコトが投げ捨てられた浮き輪を拾った。「ものはきちんとしなきゃ駄目だろう。」マコトは諭すように言った。「ごめんなさい。」は謝ったがその瞳が別のことに輝いているのは明白であった。マコトはため息をつく。「シロップは何がいい?」この少女に何かを言っても無駄なのは明白だった。「メロン!樹とお揃いの。」そう言って樹を見ると、一部始終を観察していたようでにやにやしていた。はちょっといらっとした。マコトははいはいと、そのまま家の奥へ消えていく。のいなくなったビニールプールの中で、従僕はその寂しさを埋めるように大きくなった。


「樹はかき氷食べないの?」「いらない。熱くないからな。食べたら腹を壊しそうだ。」「うわあ。あり得ない。樹変よ。」樹は意外そうに片眉をあげた。「妖怪なんてみんなこんなものさ。」「妖怪じゃなくて良かったー!」「は妖怪じゃないか。」かき氷を手にして現れたのは忍だった。「今は人間―!」「現金だな。」忍は苦笑いをしながら、彼女にかき氷を渡す。「忍の分は?」しかし背もたれのついた椅子に深く腰掛けた忍は優しく微笑んだだけだ。は不思議そうにスプーンを口に運ぶ。「一口あげるよ。」スツールから、忍の座る場所へ移動すると足の間にちょこんと収まった。「はい、あーん。」スプーンが忍の前へ運ばれる。樹にとって、それはとても不思議な光景だった。忍にこんな真似が出来るのは彼女だけだ。そう考える彼の胸を一抹の想いがよぎる。いつか自分もやってみようか、その結果は明白であるが。しばらく忍はそのままの形で止まっていたが、の「溶けちゃうよ!」と急かす声で我に返った。彼はスプーンを持つの腕を引っ張った。唇が重なる。氷が地面に落ちて、しみを作った。「ごちそうさま。」反動で氷を胸元にぶちまけたは不快そうに眉を寄せた。冷たいのは気持ち地いい、だけどべたべたする。「・・・、かき氷こぼれちゃった。」「舐めてあげるよ。」「忍はたまに頭おかしいよね。」は再びかき氷を口に含んだ。



#毒を愛す


20110727
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